徳島大学病院 脳神経外科 TOKUSHIMA UNIVERSITY HOSPITAL

脳腫瘍グループ

グループメンバー紹介

影治 照喜
(地域脳神経外科診療部 特任教授、日本脳神経外科学会専門医)
溝渕 佳史
(助教、日本脳神経外科学会専門医)
岡崎 敏之
(大学院生、日本脳神経外科学会専門医)
中島 公平
(大学院生、日本脳神経外科学会専門医)
原 慶次郎
(大学院生、日本脳神経外科学会専門医)

T.臨床

徳島大学病院脳神経外科では年間60〜80例の脳腫瘍手術を行っています。 神経膠腫(グリオーマ)、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、髄膜腫、転移性脳腫瘍などが主な治療対象ですが、 近年、手術件数・入院件数とも増加しています。脳腫瘍手術支援システムとして、 最新型手術顕微鏡、ナビゲーションシステム、超音波メスなど最先端の手術器具を導入し、 最先端のレベルの高い手術を行っています。 また、当院の放射線科や小児科と協力して小児悪性脳腫瘍に対して放射線・化学治療を集学的に行い良好な治療成績を得ています。 悪性神経膠腫は治療が難しい脳腫瘍の一つですが、世界に先駆けて中性子捕捉療法を臨床応用しており、 その優れた治療成績は世界的に注目されています。

主な脳腫瘍の治療について当院の特徴を加えながらお話し致します。

1.頭蓋底手術

頭蓋底手術とは、脳を愛護的に扱い、できるだけ脳実質の損傷を避けるために、頭蓋底部の骨を削除して行う手術です。 以前では到達困難であった深部に位置する脳腫瘍や、従来の方法では脳実質の損傷が避けられなかった腫瘍に対して行っています。 この手術を行うには、まず必要なのが熟練した手術技術と手術支援システムです。 年間10例程度の頭蓋底部腫瘍(髄膜腫、神経鞘腫など)を行っていますが、その治療成績は非常に優れており、 世界の標準レベルに達しています。

頭蓋底手術に関する画像

左 手術前(嗅芽細胞腫)

右 手術後

2.グリオーマ手術

近年、神経膠腫(グリオーマ)に対する手術は大きく変わりました。 以前は、手術の摘出度と随伴する神経症状の予防は、執刀医の経験と勘に依存するところが大でした。 当施設では、グリオーマ手術での随伴する神経症状の予防のために、覚醒下手術(手術中に患者を覚醒させて、 神経症状の出現の有無を確認する)や電気生理マッピング(脳表を刺激して運動量野やその詳細な局在を確認する)を導入しています。 また、摘出度を高めるために、最新型のナビゲーションシステムや超音波装置を導入しています。 これらにより安全で確実性の高い手術を行っています。

グリオーマ手術に関する画像

左 手術前(膠芽腫)

右 手術後

3.下垂体腺腫

下垂体腺腫は年間10例程度を手術しています。 そのほとんどが開頭手術でなく、経蝶形骨洞的に行っています。 機能性腺腫(ホルモン産生腺腫)に対する治癒率は高く、平均70%程度になっています。 また残存腺腫に対しては、ガンマナイフを併用することで更に治癒率を高めています。

下垂体腺腫に関する画像

左 手術前(下垂体腺腫)

右 手術後

4.放射線治療

神経膠腫(グリオーマ)、転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫および胚細胞性腫瘍などは手術後に放射線治療が必要です。 当科では、放射線科と協力して患者本位の治療を行っています。 最近では、基本的に状態がよく、通院が可能であれば、外来通院で放射線治療を行っています。 また、近年、限局した腫瘍に対しては、正常組織を避けて病巣部位のみを照射する定位的放射線が普及してきました。 当院でもエックス・ナイフと呼ばれる定位放射線治療装置を3台導入し、治療に当たっています。

5.化学治療

脳腫瘍の中でも小児に発生する髄芽腫、神経膠腫、上衣腫は抗癌剤による感受性があり化学治療の適応があります。 我々の施設でも、手術と放射線療法を組み合わせた集学的治療を行っており、その治療成績は秀でています。 治療効果を高めるために、小児科と協力して大量化学療法を行っています。 これは、多くの抗癌剤はその血液毒性(白血球や血小板減少)の問題から使用量限りがありますが、 あえて通常量の3〜4倍使用し、血球が減少した際には無菌室で管理し、 あらかじめ採取していた患者本人の末梢血幹細胞(末梢血中の幼弱な細胞)を戻し、 その血液毒性を和らげようとする方法です。 この治療には、経験の豊富な医師と無菌室が必要ですが、我々の施設では、 日本で先駆けて、小児の悪性脳腫瘍に応用しています。 その治療成績は日本のトップクラスであり注目を集めています。

化学治療に関する画像

左 治療前(胚細胞性腫瘍)

右 放射線・化学治療後

6.ホウ素中性子捕捉療法

神経膠腫の中でも悪性神経膠腫は、手術、放射線治療、化学治療を行っても再発は免れることは困難で、 治療が難しい脳腫瘍の代表です。 特にその中でも膠芽腫(グリオブラストーマ)は最も悪性で、従来の治療ではその生存期間中央値は10〜12ヶ月程度と言われています。 我々はこの悪性神経膠腫に対して、ホウ素中性子捕捉療法を行っています。これは、 腫瘍細胞に選択的に集まる性質を有するホウ素化合物をあらかじめ患者に投与しておき、 この腫瘍細胞内のホウ素と患部に照射された中性子が核反応を起こし、 非常に殺細胞効果の高く、飛呈距離の短いアルファ線が生じます。 このアルファ線により腫瘍細胞のみを選択的に傷害する治療法で、 正常組織内に浸潤性に発育した神経膠腫(グリオーマ)に対しては理想的な治療法と言えます。 本治療法の臨床成績は、従来の治療成績に比べて優れており、現在、注目を集めています。 本邦でも本治療を行っている施設は少なく、当院は先進的な役割を担っています。 別の欄で膠芽腫(グリオブラストーマ)と中性子捕捉療法について述べましたので参考にしてください。 また、医用原子力技術研究振興財団の下記ホームページにも詳しく記されています。

ホウ素中性子捕捉療法に関する画像

左 BNCT前

中央2つ 2週間後

右 1年6ヶ月後

脳腫瘍の標準的治療

1.脳腫瘍とは

脳腫瘍とは頭蓋内に発生する腫瘍の総称で、脳実質に発生する腫瘍および髄膜、脳神経、下垂体由来の腫瘍を指します。

脳腫瘍は基本的に脳組織から発生する原発性脳腫瘍と、他の臓器から脳に転移してきた転移性脳腫瘍に分けられます。 原発性脳腫瘍には良性と悪性の2種類があります。良性は、周囲組織との境界が明瞭で手術で全部摘出可能な腫瘍です。 増大の速度はゆっくりですが正常脳組織が圧迫を受け影響を及ぼすようになります。

これに対して悪性は、周囲組織との境界が不明瞭で、増大速度は速く、手術での完全摘出が困難な腫瘍です。 多くの場合で手術の後に放射線治療や抗がん剤による化学治療を行います。

原発性脳腫瘍の発生頻度は1年間に10万人あたり10−12人といわれています。 最も多いのが神経膠腫(しんけいこうしゅ)25%、髄膜腫(ずいまくしゅ)25%、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)17%、 神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)11% となっています。 原発性脳腫瘍は小児期から高齢者まですべての年齢で発生します。 小児期(15歳未満)には全体の5%、70歳以上の高齢者には25%、残りの70%は成人に発生しています。

2.脳腫瘍の症状

まず、もっとも大切なことは頭痛が次第に強くなり、頭痛に伴ってむかむかして食欲が低下してくるような場合は注意が必要です。 また、次第に言葉がしゃべりにくくなったり、脚や手が動かしにくくなってきたら脳腫瘍の可能性がありますので専門医の診察を受けましょう。

脳腫瘍の症状には腫瘍自体が脳組織を壊し圧迫することで生じる「局所症状(きょくしょしょうじょう)」と、 痙攣発作や限られた頭蓋のスペースの中で腫瘍が大きくなることで生じる「頭蓋内圧亢進症状(ずがいないあつこうしんしょうじょう)」といった 一般症状に分けられます。脳腫瘍の症状の特徴は、脳卒中の「突発的に、急激に症状が出現し、完成する」と異なり、 「次第に、ゆっくりと、階段状に症状が進行する」のが特徴です。

脳腫瘍の一般症状
・脳腫瘍による頭蓋内圧亢進症状(ずがいないあつこうしんしょうじょう)

脳組織は外側の外力から守るために厚い骨に覆われています。この中で脳腫瘍が大きくなっていくと圧の逃げ場がなくなり、 正常の脳組織を圧迫し圧が上昇してきます。

これを「頭蓋内圧亢進」と言います。これにより、持続的、慢性的な頭痛、吐き気や嘔吐、 うっ血乳頭(眼科の眼底検査で視神経が腫れている状態で、 視力低下や視野障害として表れます。)が出現します。特に、頭痛は最も注意しなければならない症状です。 ほとんどの頭痛は脳腫瘍などの器質的病変がなくて起こる機能的頭痛です。

これは肩こりや目の疲れ、生理や過度の緊張やストレスから頭痛が起こります。

脳腫瘍が原因で起こる頭痛は慢性的に、持続的に起こり、朝起床時に強く、日中は改善する傾向にあります。 これをmorning headache(早朝時頭痛)と言い、脳腫瘍の特徴とされています。また、頭痛の悪化に伴い、 嘔気・嘔吐が出現し活動性が低下してきます。そして頭痛は次第に進行し、終日、頭痛を感じるようになります。

これらの症状が揃った場合はかなり進行した状況ですので一刻も早く専門医の受診が必要です。

また、腫瘍が脳の中心部に発生し、脳脊髄液の流出経路をブロックすることで側脳室が拡大し、 頭蓋内圧が急激に上昇する水頭症(すいとうしょう)は非常に危険な状態です。水頭症による頭蓋内圧亢進症状の場合、 頭痛や嘔気・嘔吐が急激に出現し、急速に悪化し、生命を脅かす状態になります。

・脳腫瘍による痙攣

脳腫瘍の初期症状として腫瘍が周囲の神経細胞を刺激するために痙攣発作が出現することも少なくありません。

特に、神経膠腫や転移性脳腫瘍のような悪性腫瘍の場合は発作が起こりやすいです。

体を硬直させて、意識消失を伴い、眼球が上転する「大発作」から意識が清明でも一側の手足を無意識に動かす「小発作」や、 一点を凝視しボーとして反応が消失する「精神運動発作」などいろいろなタイプがあります。 成人でこれらの発作が出現した場合はまず脳腫瘍が疑われます。

・脳腫瘍の局所症状

脳腫瘍が発生した部位により症状が異なります。第1に運動と感覚は反対側で支配されています。 すなわち、右手・脚の運動と感覚は左脳で、左手・脚のそれは右脳で支配されています。 第2に言語機能は利き腕と大きく関連があります。

右利きの人はその90%の確率で左脳に言語中枢があります(左脳が優位半球、右脳が非優位半球と言います)。 一方、左利きの人は言語中枢が右脳である確率は50%です。「言葉が出にくい」「単語を間違ってしまう」「会話が成立しない」という症状は 失語症と言い、優位半球の前頭葉もしくは側頭葉の症状です。また視野欠損や狭窄は大脳の後方の後頭葉の症状です。 脳の中心にある下垂体に腫瘍が生じた場合は視野の中でも外側から次第に視野が狭窄してくる特徴があります。

また時に眼球運動が障害され、「物が2重に見える」といった複視といわれる症状が出てきます。

また、下垂体機能が障害されると、無月経や生理不順、全身倦怠感や食欲低下、肥満といった内分泌障害を呈します。

小脳や脳幹の障害では手足は動かせるのだが、目的とした場所に正確に手足を運べない 「失調」という症状やふらふらしてまっすぐに歩けない歩行障害や、めまいや手足の震えが出現します。

3.脳腫瘍の画像診断

近年の画像診断の発達は目覚しいものがあります。CTをはじめMRIが日本全国の病院に普及し誰もが手軽に検査できるようになっています。 しかし、消化器ガン、肺ガンや子宮ガンなどは検診制度が日本では発達し、早期発見され生存期間が延びています。 しかしながら脳腫瘍の場合、検診システムは制度化されていません。一部の病院で脳ドックが行われていますが、 すべての人が受診できるわけではありません。

大切なことは、先に述べた症状(局所症状と一般症状)がある場合には早期に専門医の診察を受け、 症状の経過を詳しく説明して神経学的な異常があるかどうか調べてもらうことが大切です。

4.脳腫瘍の治療

脳腫瘍の治療には、外科的摘出(手術)、放射線治療、抗がん剤による化学治療の3つが基本です。 標準的な治療はまず手術で腫瘍の組織を確定することからはじまります。これを病理診断と言います。 そして腫瘍の組織に応じた個別の治療を行います。

この病理診断は術中に行う「迅速病理診断」とさらに日数をかけて詳しく調べる「永久病理診断」に分かれます。

脳腫瘍にはいろいろな種類があり、放射線治療・化学治療の効果があるもの、まったく無いもの、 良・悪性の判定を個別に行う必要があります。

・外科的摘出術

外科手術により患部を全部摘出することが最も有効な脳腫瘍の治療です。多くの良性腫瘍は手術で治癒可能です。

しかし良性腫瘍でも発生した場所によっては全部摘出できないことがあります。

これは手術により機能的障害(麻痺、言語障害、脳神経症状)を新たに生じ増悪させる可能性が高い場合には部分摘出になってしまいます。

従来は術者の経験や勘に頼るだけでしたが、最近では手術中に患者の運動機能をリアルタイムにモニタリングしたり、 ナビゲーションシステムを導入し腫瘍の位置を正確に把握することが可能になっています。 また正常組織内に浸潤している神経膠腫をできるだけ摘出するために腫瘍細胞を発色させる術中蛍光診断を行っています。 このように手術を支援するシステムが発展して、脳腫瘍手術の安全性と確実性が飛躍的に進歩しています。

・放射線治療

近年、脳腫瘍の放射線治療技術の進歩は著しいものがあります。

基本的に悪性脳腫瘍の場合、外科的摘出術では腫瘍細胞をすべて取り除くことは困難ですので放射線治療が行われます。 また良性腫瘍であっても再発を繰り返す場合は放射線治療の適応になります。

放射線治療には通常分割外照射と定位的照射の2種類あります。前者は正常組織に浸潤性に発育する神経膠腫に適応があります。 かなり広い範囲を照射しますが、必要総線量を20-30回に分割して照射する方法です。 こうして正常脳組織に対する影響を最低限に抑えることができます。 ただ治療日数は照射回数により1ヶ月から2ヶ月かかります。後者の定位照射は近年開発された方法です。 ガンマナイフ、サイバーナイフ、エックスナイフと呼ばれる装置がこれに該当します。再発を繰り返す髄膜腫や神経鞘腫などの良性腫瘍、 あるいは転移性脳腫瘍が適応になります。これらの腫瘍は、神経膠腫と大きく異なるところは、正常組織との境界が明瞭である点です。 定位放射線照射は腫瘍組織のみに絞って照射することが可能です。 正常組織への照射の心配がありませんが、腫瘍直径が3cmまでの腫瘍が適当です。

・化学治療

抗癌剤による化学治療は悪性脳腫瘍に対して、外科的手術の後、放射線治療と併用あるいはその後に行います。 すべての脳腫瘍が抗癌剤に感受性があるわけでありません。したがって正確に組織型を病理で診断することは非常に大切なことです。 特に小児脳腫瘍には感受性が高い腫瘍が多く、当院では小児科と協力して集学的な治療を行っています。

脳腫瘍の代表例

・神経膠腫(しんけいこうしゅ:グリオーマ)

神経膠腫(グリオーマ)は脳に発生する悪性脳腫瘍の代表例です。 原発性脳腫瘍の約30%を占めます。グリオーマの中には細かな細分類がありますがここでは割愛します。 成人にも小児にも発生します。

一般に、この腫瘍は腫瘍の中心部から正常脳組織内にしみ込むように発育していきます (これを「浸潤性」に発育すると言います。)。このために腫瘍の中心部から離れた部位では 正常組織との境界が不鮮明となり外科的手術で全部を摘出することは困難です。

悪性度の分類は世界保健機構(WHO)分類が一般的です。

これはグレード1から4まで腫瘍の病理特徴から分類したもので臨床経過とよく関連しているために全世界で使用されています。 グレード1から4になるにつれて悪性度が高くなってきます。

最も悪性度の低いグレード1は小児に多い腫瘍で、発育も緩徐で全摘出できれば放射線・化学治療の必要性はありません。 グレード2は比較的若い成人(20-30歳)に発生します。全摘出されたなら経過観察しますが、 腫瘍が残存した場合は放射線治療を行うこともあります。 グレード3と4は悪性度が更に高くなります。すなわち腫瘍の増大速度も速く、片麻痺や失語症などの臨床症状の進行が早いのが特徴です。 特に、グレード4は膠芽腫(こうがしゅ:グリオブラストーマ)と言われ、最も悪性度が高い腫瘍で、 現在の治療技術をもってしてもなお治癒が困難な腫瘍です。

膠芽腫の場合、手術だけでは、ほとんどが数ヶ月で再発するために放射線治療や化学治療を行っています。

通常の放射線治療では効果があまり期待できないために徳島大学病院では東京大学、筑波大学、 日本原子力研究開発機構と協力して粒子線治療の一つであるホウ素中性子捕捉療法(ちゅうせいしほそくりょうほう)を 適応のある患者さんを選び、倫理委員会の審査を経て行っています。ただ、未だ臨床研究の段階ですので多くの問題点がありますが この治療成績は従来の治療成績を大きく上回るもので世界的に注目を集めています。詳細は、下記のホームページを参考にしてください。

また2006年からテモダールという新規の抗癌剤が承認されました。 これは経口薬で比較的副作用が少なく、膠芽腫に対しての効果が証明されています。

・髄膜腫(ずいまくしゅ:メニンジオーマ)

髄膜腫は良性脳腫瘍の代表例です。原発性脳腫瘍の中で26%程度を占めています。

これは「髄膜」から発生してくる腫瘍です。髄膜は脳実質を覆っている膜の総称です。

したがって髄膜がある部位ではどこでも発生してきます。

通常は、脳実質を圧迫する形で発育し、脳との境界は明瞭で、発育も非常に緩徐です。 50-60歳台をピークとした成人に好発し、女性の方が男性より2倍発生率が高いと言われています。 90%以上が良性ですが、悪性髄膜腫も少ないながらあります。

症状は、初期は脳神経の圧迫症状や痙攣で、大きくなった場合は頭蓋内圧亢進症状を呈することもあります。 最近では、CTやMRIが普及したこともあり無症状の髄膜腫が発見されることも多くなっています。

無症状で、小さな髄膜腫は手術せずに経過観察しますが、症状を呈している場合は治療の必要性があります。 基本的には全摘出で治癒が期待できます。

しかし、頭蓋底部といった手術が困難な部位にできた髄膜腫や再発を繰り返す場合や、 悪性髄膜腫の場合は放射線症治療が必要です。 この場合は、先に述べたようにガンマナイフやエックスナイフと言われる定位的放射線治療が効果的です。

・下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)

下垂体腺腫とは脳下垂体にできる脳腫瘍です。脳下垂体は頭蓋骨の底部のトルコ鞍という1cm程度の骨の凹みにある組織で、 内分泌機能の調整をしています。2次成長を起こしたり、生殖に関連するホルモンを分泌したり、骨、甲状腺、副腎に働きかけています。 また尿量の調節も行っています。脳下垂体の両側には内頚動脈という脳に 血液を送る大きな血管や眼球運動をコントロールしている脳神経があります。

またすぐ上方には視力・視野に関連する視神経があります。

下垂体腺腫はそのほとんどが良性で、発育速度は遅く、脳以外への転移は極めて稀です。 小児に発生することは極めて稀で、髄膜腫同様に成人に発生する脳腫瘍の代表例です。 下垂体腺腫には、ホルモンを産生する腺腫(ホルモン産生腺腫)とホルモンを産生しない腺腫(ホルモン非産生腺腫)に分類できます。 両者の比率は50%:50%です。

ホルモンを産生する腺腫(ホルモン産生腺腫)
・プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)

プロラクチンを産生する腺腫です。ホルモン産生腺腫の中で最も多く40%を占めます。若い女性に多く、生理不順、無月経、乳汁分泌を呈します。 女性の場合は比較的に早い時期に病院を受診し、精査を受けることが多いので腺腫は1cm以下の小さなことが多いです。一方、男性の場合、 頻度は少ないのですが、性欲低下やインポテンツを呈します。受診が遅れる傾向があり、発見時にはかなり大きくなって視力・視野障害を 伴っていることが多くなっています。この腺腫はブロモクリプチンという薬剤が非常に効果的です。したがって小さな腺腫で、服薬が副作用なく 可能な患者さんに対しては薬物治療が第一選択になります。しかし服薬が困難な方あるいは発見時既に大きな腺腫では手術を行うことが多いです。

・成長ホルモン産生腺腫(末端肥大症)

成長ホルモンを産生する腺腫です。約20%を占めます。骨に作用し、手足の先端、前額、あご、口唇、舌などが肥大し末端肥大症となります。 このために指輪や靴の サイズが合わなくなったり、顔貌が変化してきますが本人は案外気付いていないことがほとんどです。 長期間にわたり成長ホルモンの過剰状態が続くと、糖尿病や高血圧を併発してきます。 治療はプロラクチノーマのようにはブロモクリプチンの 効果がないために手術が第1選択になります。近年、サンドスタチンという注射薬が開発されました。 これは非常に効果がありますが、高価であるのが欠点です。

手術でもホルモンの正常化が得られない場合には、まずガンマナイフなどの定位放射線治療を行いますが、 それでも効果がない場合はサンドスタチンを使用します。

・副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病)

全下垂体腺腫中数%しかみられない稀な腺腫です。しかし多彩な症状を呈しクッシング病と言われています。 腹部を中心に脂肪がたまり(中心性肥満)、顔は満月様に丸くなり、にきびが出たり、 体毛が濃くなり下腹部に妊娠線のような皮膚線上がでます。

また、高頻度で高血圧や糖尿病が早期から出現し、四肢の筋肉の萎縮や骨粗鬆からの病的骨折がおこります。 これらはすべて腺腫から副腎刺激ホルモンが過常に分泌されることで、副腎からのステロイドの影響による症状です。 治療は、薬物治療の効果がほとんどないために手術が第1選択です。効果がない場合は放射線治療も行います。

ホルモンを産生しない腺腫(ホルモン非産生腺腫)

下垂体線腫全体の50%を占めます。初発症状としては上方に進展して視神経圧迫の症状がほとんどです。 すなわち、視野の外側から(耳側から)視野欠損がはじまり、視力も次第に低下してきます。 また、正常下垂体の圧迫から、下垂体機能低下を招き、女性では生理不順、男性では性欲低下が起こります。 また疲れやすくなったり、食欲がなくなったりします。

近年、偶然に発見される下垂体腺腫も増加しています。 基本的には症状を呈していない、小さな腺腫は手術を行わず経過観察を行います。

下垂体腺腫の手術

下垂体腺腫の手術は、頭蓋骨を開ける通常の開頭手術を行うことは非常に少なく、 ほとんどで蝶形骨洞という副鼻腔の一つを経由する方法で手術しています。 この方法はハーディ法といい安全性が高く、トルコ鞍内の腫瘍を確実に摘出できる方法です。 最近では、視認性に優れた神経内視鏡を用いて腫瘍摘出を行っており、更に安全で摘出度が向上しています

・神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)

神経鞘腫とは神経を取り巻いて支えている鞘(さや)から発生する腫瘍で、脳神経や脊髄神経から発生します。 一般には良性腫瘍で、手術により完全摘出ができた場合には治癒が期待できます。 発生する脳神経により症状は異なりますが、聴神経から発生する場合が最も多く(70-80%)、 ついで顔面の知覚を行っている三叉(さんさ)神経、顔面の運動を行う顔面神経などから発生します。 聴神経鞘腫の場合、聴力の低下で発症します。突発性難聴のような突然に発症する場合もありますが ほとんどは数年の経過で進行します。特徴は電話声が聞こえるが何を言っているのか判らない (=言語識別力の低下)です。腫瘍の増大につれて近接した三叉神経障害から顔面の感覚障害、 顔面神経障害から顔面神経麻痺(顔面の表情筋の一側のたるみ)がしばしば伴います。 また更に大きくなり小脳や脳幹を圧迫することで、ふらふらして歩行ができなくなったり、 水頭症から頭蓋内圧亢進症状をきたして生命を脅かすこともあります。

神経鞘腫は基本的には良性腫瘍ですので外科的摘出が第1選択になります。

聴神経鞘腫の場合、腫瘍の周囲は顔面神経や脳幹・小脳に接しているために手術難易度の高いものの一つです。 開頭術で腫瘍摘出を行います。手術前に中等度以上の聴力障害(自分で難聴を自覚している場合)がある場合には、 手術を行っても聴力の回復はまず困難です。一番の問題は顔面神経の温存です。この顔面神経は通常、 腫瘍により顕微鏡下でも肉眼で見えないぐらいに圧迫され広がっているためにこれを温存することに最大限の努力を 払います。3cm以上の大きな腫瘍では程度の差はありますが顔面神経の障害が出現する可能性もあります。

手術以外の方法としてはガンマナイフによる定位的放射線治療があります。 直径が20mm程度の小さな腫瘍に限られますが、縮小効果は20-50%で、顔面神経麻痺の出現は20-30%、 聴力温存は40-50%と、外科的摘出よりは合併症の頻度は少ないです。 高齢者や全身合併症を有する場合は有効な治療法です。

脳腫瘍の治療に関する関連サイト
徳島大学脳神経外科ホームページ
http://www.neurosurgerytokushima.com/index.html
国立ガンセンターホームページ
http://ganjoho.ncc.go.jp/pub/med_info/cancer/index.html
悪性神経膠腫に対するホウ素中性子捕捉療法の関連サイト
徳島大学脳神経外科ホームページ
http://www.neurosurgerytokushima.com/brain_cancer.html#
医用原子力技術研究振興財団ホームページ
http://www.antm.or.jp/index.html

下垂体腺腫と最新の手術

下垂体腺腫とは脳下垂体にできる脳腫瘍です。脳下垂体は頭蓋骨の底部のトルコ鞍という 1cm程度の骨の凹みにある組織で、内分泌機能の調整をしています。2次成長を起こしたり、 生殖に関連するホルモンを分泌したり、骨、甲状腺、副腎に働きかけています。 また尿量の調節も行っています。脳下垂体の両側には内頚動脈という脳に血液を送る大きな血管や 眼球運動をコントロールしている脳神経があります。

またすぐ上方には視力・視野に関連する視神経があります。 下垂体腺腫はそのほとんどが良性で、発育速度は遅く、脳以外への転移は極めて稀です。 小児に発生することは極めて稀で、髄膜腫同様に成人に発生する脳腫瘍の代表例です。 下垂体腺腫には、ホルモンを産生する腺腫(ホルモン産生腺腫)とホルモンを産生しない腺腫 (ホルモン非産生腺腫)に分類できます。両者の比率は50%:50%です。

ホルモンを産生する腺腫(ホルモン産生腺腫)

・プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)

プロラクチンを産生する腺腫です。ホルモン産生腺腫の中で最も多く40%を占めます。 若い女性に多く、生理不順、無月経、乳汁分泌を呈します。女性の場合は比較的に早い時期に 病院を受診し、精査を受けることが多いので腺腫は1cm以下の小さなことが多いです。一方、男性の場合、 頻度は少ないのですが、性欲低下やインポテンツを呈します。受診が遅れる傾向があり、発見時には かなり大きくなって視力・視野障害を伴っていることが多くなっています。この腺腫はブロモクリプチンと いう薬剤が非常に効果的です。したがって小さな腺腫で、服薬が副作用なく可能な患者さんに対しては 薬物治療が第一選択になります。しかし服薬が困難な方あるいは発見時既に大きな腺腫では手術を 行うことが多いです。

・成長ホルモン産生腺腫(末端肥大症)

成長ホルモンを産生する腺腫です。約20%を占めます。骨に作用し、手足の先端、前額、あご、口唇、舌などが 肥大し末端肥大症となります。このために指輪や靴のサイズが合わなくなったり、顔貌が変化してきますが 本人は案外気付いていないことがほとんどです。長期間にわたり成長ホルモンの過剰状態が続くと、糖尿病や高血圧を 併発してきます。治療はプロラクチノーマのようにはブロモクリプチンの効果がないために手術が第1選択になります。 近年、サンドスタチンという注射薬が開発されました。これは非常に効果がありますが、高価であるのが欠点です。

手術でもホルモンの正常化が得られない場合には、まずガンマナイフなどの定位放射線治療を行いますが、 それでも効果がない場合はサンドスタチンを使用します。

・副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病)

全下垂体腺腫中数%しかみられない稀な腺腫です。しかし多彩な症状を呈しクッシング病と言われています。 腹部を中心に脂肪がたまり(中心性肥満)、顔は満月様に丸くなり、にきびが出たり、体毛が濃くなり下腹部に 妊娠線のような皮膚線上がでます。

また、高頻度で高血圧や糖尿病が早期から出現し、四肢の筋肉の萎縮や骨粗鬆からの病的骨折がおこります。 これらはすべて腺腫から副腎刺激ホルモンが過常に分泌されることで、副腎からのステロイドの影響による症状です。 治療は、薬物治療の効果がほとんどないために手術が第1選択です。効果がない場合は放射線治療も行います。

ホルモンを産生しない腺腫(ホルモン非産生腺腫)

下垂体線腫全体の50%を占めます。初発症状としては上方に進展して視神経圧迫の症状がほとんどです。 すなわち、視野の外側から(耳側から)視野欠損がはじまり、視力も次第に低下してきます。 また、正常下垂体の圧迫から、下垂体機能低下を招き、女性では生理不順、男性では性欲低下が起こります。 また疲れやすくなったり、食欲がなくなったりします。

近年、偶然に発見される下垂体腺腫も増加しています。基本的には症状を呈していない、小さな腺腫は手術を行わず 経過観察を行います。

下垂体腺腫に対する最新の手術

下垂体腺腫の手術には頭蓋骨を開ける経頭蓋手術と鼻腔から到達する経鼻的手術の2つの方法があります。

経頭蓋手術は大きな視野が得られる半面、前頭葉を圧迫することで脳に関する合併症が出現する可能性があります。 一旦、脳に関する合併症が出現したらその症状が後遺する恐れがあります。また下垂体腺腫はトルコ鞍という骨の くぼみから発生することが多いために小さな腺腫では経頭蓋手術では確認することが困難で摘出ができません。 一方、経鼻的手術では、鼻腔粘膜を剥離して蝶形骨洞という副鼻腔を経由して下からトルコ鞍を開けて腫瘍摘出を 行う方法です。これでは視野は経頭蓋手術に比べて視野が狭い半面、脳組織を扱わずに腺腫を摘出できるために 脳に関する合併症がほとんどありません。したがって安全性に優れています。このような利点から、我々の施設では 下垂体腺腫の90%以上では経鼻的手術で摘出を行っています。この方法はハーディ法といい安全性が高く、 トルコ鞍内の腫瘍を確実に摘出できる方法です。

神経内視鏡単独使用による下垂体腺腫摘出術

従来の経鼻的手術では顕微鏡による手術でした。これでは光軸が直線であるために得られる視野に限りがあり、 側方の確認が困難でした。この欠点を克服するために、2008年から視認性に優れた神経内視鏡とこれ専用の 固定器具を臨床導入して手術を行っています。これにより、現在では従来の顕微鏡を用いずに、神経内視鏡単独使用で 手術を行っています。これにより従来の顕微鏡手術では見えなかった場所の腫瘍も摘出できるようになりました。 神経内視鏡手術では、視野は非常に拡大して従来の顕微鏡下経鼻的手術の欠点を克服することができ、 腫瘍摘出度の向上とさらなる安全性に貢献しています。

利点 欠点
経頭蓋手術 術野が広い 脳の合併症が起こる可能性がある トルコ鞍内に生じた小さな腺腫には摘出が困難 出血量、手術時間など患者負担が大きい
神経内視鏡下経鼻的手術 脳を扱わないために脳に関する合併症が起こりにくい 小さな腫瘍から大きな腫瘍まで摘出可能で摘出率が高い 出血が少ない 手術時間が3時間程度で患者負担が少ない 入院期間が10-14日程度 神経内視鏡を使用することで十分な視野が得られる。 顕微鏡では見えない場所の摘出が可能になった。 神経内視鏡とその固定具が必要 器具の操作に熟練が必要

現在まで150例以上の下垂体腺腫の手術を行っていますが、死亡例や重篤な合併症を併発した患者さんはいません。 全員、家庭生活復帰だけでなく社会生活に復帰されて元の仕事を行っています。

神経内視鏡を導入したことで摘出率が向上し、症状改善率が改善しています。

下垂体腺腫の過去5年間の手術件数
年度  手術件数
2006年 14件
2007年 9件
2008年 15件
2009年 14件
2010年 11件
代表症例
術前 非機能性下垂体腺腫:視力視野障害で発症
術後 視力・視野障害は完全に回復
成長ホルモン産生腺腫
術前 成長ホルモン 7.63 ng/ml(正常値2.10 ng/ml以下)
術後 成長ホルモン 1.40 ng/ml(正常値2.10 ng/ml以下)

U.基礎研究

神経膠腫は成人に発生する脳腫瘍の中で最も多い腫瘍です。 悪性神経膠腫は、手術のみで治癒させることは不可能で術後に放射線治療・化学療法を行います。 しかしながら、しばしばこれらの治療に反応せず再発・再増大を起こします。 この治療抵抗性の原因の一つに、腫瘍がアポトーシス(細胞死の機構の一つ)を回避する性質を獲得していることが挙げられます。 培養細胞・手術組織を用いて、どのようにしてアポトーシスを回避しているかを分析し、 新たな分子標的治療あるいは遺伝子治療の可能性を探っています。現在はまだ、細胞実験の段階ですが、 これらの新しい治療法の有効性が実験で証明されれば、従来の治療法に組み合わせて行うことが可能になります。 今後、研究成果が期待されます。

過去3年間の脳腫瘍の手術症例です。
2004年 62例
2005年 65例
2006年 83例
2007年 65例
2008年 65例
2009年 69例
2010年 79例
2011年 90例